1950年代、北京郊外に半導体を中心とする国営工場があった。その工場跡地にアメリカ人によるアートブックストアーがオープンし、美術家が集まるようになった。そこにギャラリーがひとつオープンしたかとおもったら、次々とそこにアトリエをかまえる美術家やギャラリー、カフェ、デザインオフィスなどがオープンした。いま中国現代美術の発信基地として世界から注目を浴びている大山子芸術区を訪れてみた。
国慶節のGWで賑わう天安門広場を尻目に、わたしは北京の地下鉄に乗り込んだ。大山区芸術区へ行くには地下鉄「東直門」からバスに乗り換えていかねばならない。いや、必ずしも地下鉄とバスを利用しなければならないことはない。最近は急な円高でレートもいいし、わたしの宿泊している建国門からはTAXIを使ってもそれほど遠くはないはずだ。しかし、わたしはあえて市民交通を利用して行くことにした。中国人の隣りに座って、自分が北京の生活空間に溶け込んでいることに喜びを感じたいから。
大山子芸術区の場所はだいたい知っていた。日本人学校が近いこともあって日本人が多く住む酒仙広寓(アパート)の近く、地図で見ると北京国際空港へと延びる高速道路沿いにある。909路バスを「王爺墳
wangyefen」で下車。陸橋の下をくぐり、まもなくすると右側に宏源アパートが見えてくる。警備員が24時間立っているのでわかるだろう。どうやらここがその大山子芸術区の入口らしい。ちょっと期待しながらぷらぁーっと歩いていると、巨大な右手が建物の入口からはみ出ているのが見えた。誰もがすぐにこれが誰の右手であるかは想像できるだろう。あまりに大きすぎて会場に入らなかったとの理由でそこに展示(いや放置?)されていた。このアバウトな感じがゆる〜くていいなぁ。それでいて十分アドバタイズメントしているし。その巨手がはみ出ている入口から建物の中へ入ってみる。天井が高く、明るい。壁には工場が動いていた頃のスローガン「毛沢東万歳万万歳」などが残されたままになっていた。この場所の土地の記憶を濃厚に感じる断片として、そしてこの地の存在と歴史の証しとして十分効果のあるものだった。
↓アサヒ・ドットコムには巨手写真が掲載されているので是非ご参考ください。
http://www.asahi.com/international/w-watch/TKY200310100171.html
その隣りのスペースでは、中国人男性と日本人女性による愛の写真展「映里的映像世界」が開催されていた。高い天井と敷き詰められた砂という空間の雰囲気とモノクロ写真が一体となっててよかった。大きく引き延ばされた写真が天井から吊り下げられてある展示体形も自在度が高くてマルです。
以下に大山子芸術区の簡単な地図と雑感を記載します。
<北京東京芸術行程>
大山子に初めてオープンしたギャラリー。日本への留学経験をもつ黄鋭氏とその友人である銀座画廊の田畑幸人氏とともに昨年10月12日ここに北京東京芸術行程をオープン。 内装デザインは建築家・張永和によるものと聞いていたのでたのしみにしていたのだけれど、残念ながら国慶節の暇日でギャラリーは閉まっていた。よって隣接する黄鋭氏アトリエも。。。アトリエのガラス窓から内部を覗いていると何やら外が騒がしい。外では映画の撮影をやっていた。それだけここは工場跡地の廃虚の雰囲気と現代美術がうまく噛み合っているロケーションなのだ。 そういえばここの工場跡地の管理会社との契約期限が2005年までとのことで、存続の危機が危ぶまれているそうだ。なんとかして存続していってほしいと願います。 |
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<百年印象撮影画廊>
北京で初の写真専門ギャラリーとのこと。ギャラリーデザインは黄鋭氏によるもので、真っ白な壁の高い天井が魅力的なロフト。それにしても最近の中国はロフトが多いなぁ。
百年印象のホームページ http://www.798photogallery.cn/
<時態空間>
ここのオーナーは胡同存続活動の第一人者である徐勇氏。1990年に胡同をテーマとした写真集「胡同101像」は日本でも出版された。胡同やここ大山子に息づく時間と状態を保存し続けていきたいという思いを込めて、このギャラリー名が名付けられたという。ここ時態空間のホームページにはここがギャラリーになる前の工場時代の記録写真が掲載されてあり、そんなところからも彼の意図するところがわかる。わたしが時態空間を訪れたときに、ちょうど彼がギャラリーにいた。写真家であり経営者でもあるその顔には凛とした雰囲気があり、終止笑顔を見せることはなかった。ここだけの話しだけど、ここのスペース料金について彼に伺ってみたところ、だいたい5,000
RMB/weekday くらい、たぶんこれは日本人料金とおもわれるが、あくまでもご参考まで。利用したいひとは直接コンタクトをとって交渉してください。ちなみにジャンルは問わないが現代美術に限るとのこと、それと電圧は220〜380V。
時態空間ホームページ http://www.798space.com/
<北京領袖服装服飾工作室>
もとはファッションカメラマンだったという向小麗氏がオープンさせたショップ。ショップ入口の大きなガラス戸がとてもいいかんじだ。オーダーメイドも承るとのことで、彼女がデザインしたものを裁縫の勉強をしていた弟の向小軍氏が縫っていく。中国らしさの残る洋服が多く、彼女にたくさん試着させてもらいたのしかった。 |
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ちなみにわたしの気に入った薄手の羽織は400RMBで、他にはパンツ200RMB〜、スカート500RMB〜、ネックレスなど。 彼女はわたしが日本人と知ると「ワダエミも来て名刺を置いていってくれたのよ」とうれしそうに話した。それにしてもここのBGMなんだけどBeastie
BoysのSabotageというのはどうなんだろう、なんだかとても不釣り合いだったなぁ。ロフトの2階には、彼女の旦那(美術家)の作品写真が展示してあった。高原で数人の男女が全裸で水洗便器に座っている写真がいいかんじだった。
今回ここを訪れてみておもったことは、場所の記憶と美術の存在意義がリンクしている空間であるということ。日本でも灰塚プロジェクトなどの例があげられるかもしれないが、それとは比べ物にならないだろう。ここの空間はほんとにリアルだ。昔のソーホーみたいだ、と言うひとがいるけれど、わたしはソーホーに言ったことがないのでわかりません。ただ言えることは、社会や歴史に対してメッセージを持つ空間であり、こうやって中国において芸術表現の自由がゆるくなったという事実に中国経済成長と美術との関連を考えてしまう。この先、文革や共産主義以外にどのような問題(テーマ)を見つけるのか、注目していきたい。
:アクセス: 場所は北京郊外の首都机場路沿い付近。 地下鉄「東直門」からでているバス909路で「王爺墳
wangyefen」下車、酒仙橋路を北へ歩くと右手に宏源アパートが見えるのでその脇にある道を右折。 |
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